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『ボヘミアン・ラプソディー』感想|ライブエンターテイメントの極致。天才パフォーマーが孤独の旅の果てに辿り着いた安らぎの家QUEEN

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ボヘミアン・ラプソディ』(Bohemian Rhapsody

昨年末に公開されてから、このブログを書いている2月現在もロングランを続けている大ヒット映画、ボヘミアンラプソディーの感想です。


ストーリー
1970年のロンドン。ルックスやインドからの移民という出自に劣等感を抱くフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)は、厳格な父に反発しながらロックミュージックにのめり込んでいた。フレディが追っかけをしていたバンドのボーカルが脱退したというブライアン・メイ(グウィリム・リー)とロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)のバンド、スマイルズに自分を売り込む。類いまれな歌声に心を奪われた二人は彼をバンドに迎える。このスマイルズこそ、後の伝説のバンドQUEENだったー


映画冒頭、楽屋裏の控え室の扉が叩かれる。ついにQUEENの出番だ。マイクを手に取り、忙しく行き交うスタッフの中を悠然と進むピチピチの白いパンツとタンクトップの男の背中。向かうは10万人の観客が待つステージ。


そして時計は戻り1970年のロンドン。どこか自信なさげな青年が映し出される…


この冒頭のライブ直前のシーンがとにかくかっこいい!この時点では主人公であるフレディの顔は映らず、お預けされた気分。それも手伝ってか、この映画への期待が一気に高まります。そして物語はこの素晴らしいライブに向かって進んで行き、その過程を私は楽しむんだと思いました。

しかし時間が戻され、ついに主人公の顔がスクリーン映ったとき、私はぎょっとしてしまいました。

なんだか、すごい出っ歯。

役者の口にマウスピースのように歯をつけて役づくりをしているのでしょう。セリフが喋りずらそうでアクセントも少し変。

事実、フレディは歯並びが悪く、それがコンプレックスでもあったようです。しかしやりすぎのような…それともこんなものなのかな。映画ということで少し誇張したのかもしれないし。


そしてフレディは後のQUEENとなるバンドにボーカルとして加入。アルバムを制作しチャートイン。恋人と結婚。全米ツアーまで決定。まさにトントン拍子に進んでいきます。止まらないQUEENの快進撃。そしてついに映画のタイトルでもある、ボヘミアンラプソディーが収録されるセカンドアルバムの制作へ移ります。

ここまでのテンポはとても早く、物語についていくのが少し大変でした。2、3言喋った女の子と恋人同志になり、プロポーズ。初めてのライブシーンでフレディはバンドの既存曲の歌詞を代えて歌い、舞台上でメンバーに怒られますが、その事はとくに掘り下げられず。フレディの家族とバンドの親交会の際、彼の移民としてのコンプレックスが少し描かれますが以降特に触れられず。

そもそも主要な登場人物のはずのバンドメンバーもモブキャラのようでフレディの側にいてもあまり交流は描かれず。ドラマ部分に引っ掛りを感じつつも、趣向を凝らしたレコーディングシーン、(楽器以外のものも音にのせたり、テープが擦りきれるほど多重録音を重ねたり)は確かに楽しい。ライブ中のフレディの衣装なんかも最高です。


物語には乗りきれないけれど、映像は楽しいという不思議な気持ちで映画を観ていました。

物語は成功からマネージャーなど裏方との確執、そしてバンドメンバーとの確執。フレディはバンドは家族と言い放ったあと、多額の契約金に釣られソロデビュー。バンドを抜けたも同然の状態に。地位とお金を、手にいれてもフレディは孤独感に苛まされます。

しかし、そもそもバンドメンバーとの絆が描ききれてない気もするので、フレディのその後の孤独感が浅いのです。

そしてフレディのセクシャリティーの話もやはり浅い。

紆余曲折を経てバンドメンバーととりあえず和解。厳格な父ともなんとなく和解。ちぐはぐなまま冒頭のライブシーンへなだれ込んでいきます。


あとから思い返すと私が物語だと思っていた箇所はフレディ・マーキュリーのというスターの年表のダイジェスト、バラエティー番組の再現VTRのように感じられました。だから、物語は進んでいるのに、人物像が掘り下げられず、ドラマの積み上がりを感じなかったのでしょう。

それでも観客10万人、衛星中継で何億という視聴者へ向けての伝説のパフォーマンスの再現は素晴らしく、是非映画の巨大スクリーンと音響で体験すべきものだとも思いました。

映画にはたまにあるのですが、脚本がイマイチのものに素晴らしい映像とキャストが揃い、ラストシーンが盛り上がるハッピーエンドだと、何だかモヤっとしたけれど見終わった後は何だか良い映画だった気もするのです。

ボヘミアンラプソディーは周囲と自分とどう向き合うかという普遍のテーマが扱われています。フレディ・マーキュリーという天才ですらそれからは逃れられなかった。しかし、回り道しながらも進み続け、彼は自分自身で一度は手放したバンドメンバーや家族、親友という安らぎの家に帰ったのでしょう。